ベルナール・フォコン写真集 飛ぶ紙




 ベルナール・フォコン(1950-)の写真作品と制作途中の風景を織り交ぜた写真集。南仏プロヴァンス地方のアプトに生まれたフォコンは、幼年時代を穏やかな田園に囲まれて過ごした。少年時代から青年時代にかけては絵画の制作に熱中していたが、ソルボンヌ大学において哲学専攻を修了するやいなや、写真の世界に飛び込んだ。

「ぼくは写真とマネキン人形を同時に発見した」

 この本はフォコンの初期作品から近作(1986年刊行当時)までを収録したものである。彼の作風の代表とも言えるマネキン人形を現実の風景に置くという、フィクションと現実を綯い交ぜにした作品を見ることが出来る。また制作風景を記録したモノクロームのスナップも掲載されている。マネキン人形がいる光景には、必ずある「仕掛け」がなされている。画面の向こうで火事が起こっていたり、現実の生身の少年が登場していたり……。 しかし1981年以降マネキン人形は姿を潜め、彼の故郷アプトを彷彿とさせるようなラベンダー畑やみかん畑などの自然風景、邸宅の室内風景がメインの被写体となっている。風景は正方形の枠組みで切り取られたピクチュアレスクなものである。しかしのどかな田園風景の中ではオレンジ色の炎が立ち揺らいでいたり、室内には無数の紙片が飛び交うなど、やはり一筋縄ではいかない写真が展開される。

「……それにしても、死がそこまで迫っているというのに、誰ひとり騒ぎたてようとしないのはなぜだろう。すでに死者の目で、『生』もしくは『生の記憶』を振り返っているせいだろうか。」

 安部公房によって寄せられた帯文。短い言葉でありながらも、フォコンの本質を突いているようである。現実の風景は「死んだ」マネキン人形のまなざしを借りたものである。現実では起こりえないような出来事が、鮮明なヴィジョンを持って提示されるその写真は、人間の原初的な「生の記憶」の集合体であるのかもしれない。

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