春の花ばな


2年前のことを思い出す。

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春の花ばなを探しに、どこまで行こうか。

パソコンのキーボードを叩いて、見つけたいくつかの場所をリストアップしていく。エリアを決めれば、ルートも組みやすい。

比立内の水芭蕉群生地。ブログの写真に載っていた看板はもうなかった。でもこの坂道の表情はなんら変わらない。そう、この坂道。これを下って、つきあたりを右に。
どきどきしながら、車を空き地に停めようとしたら、先客の県外ナンバーの車。
昨晩の雨で少し足もとがぬかるんでいる。ハイカットのマウンテンブーツを車に積んでおいて正解。
靴を履き替えて、群生地の方へ。



ようやく先客とすれ違った。
「こんにちはー」
その後、地元のご婦人とすれ違った。夢中でシャッターを切る私を珍しく思ったのか(不審に思ったのか)、声をかけられた。
「いっぱい撮っでらな。花が好きなんだか?」
はい、今日は休みなので、この辺りの花が綺麗なスポットを巡っているんです。
「この後、どこに行ぐの?」
あわててわたしは頭の中の地図をがさがさする。出てこい、地名!
越山。
「越山か、あそこはじいちゃんがよく山菜を取りに行っでたね。『敷かさってる』場所があるって言うの。『敷かさってる』って分かるが?」
なんとなく、とわたしは応える。
「行くまで気をつけてね。ダンプに轢かれねようにな〜。」

越山の福寿草自生地に辿り着くのは、比立内の水芭蕉群生地に行くよりも簡単だったかもしれない。目印の商店に着くと、「こっちこっち!」と来る人を招き入れるような看板が立っている。矢印に促され、少し丘に登る。気づくと、庭先にも福寿草がある。
黄色い宝石。ダイヤモンドの「ブリリアントカット」みたいに、規則的な花弁の開き方が煌きを増しているように見えた。



どきどきした。
入り込んじゃいけない場所にいるような気がした。写真を撮ったら、早くこの場を去らなきゃいけないような…でも花は見たいし、前に進みたい。
大げさに聞こえるかもしれないけれど、その時の私は本当に興奮していた。間近で見る福寿草が放つ黄色の光はそれだけ神々しく見えたんだから。


呼吸を整えて丘を降りる。
…と、ふもとの人家には、庭先にも福寿草が自生していた。
少し拍子抜けした。

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鮮やかな黄色の余韻にひたりつつ、ぼうっと自宅の庭先に目を遣ったあの日のことをもう少し思い出してみる。
もうひとつの花。

たわわに溢れる馬酔木。

そろそろ今年も、春の花ばなを探しに行こうか。


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