「     」

記憶が抜け落ちて、出来た空白。
私たちの知らない人、場所、時間。
知り得ないもの、触れ得ないものの表情。


なぜか私たちは空白に充たされた古写真を愛おしく感じた。
そして、一冊の本を作った。


今思うと、この本にタイトルはつけようがなかったのかもしれない。

あれやこれやと、私は自分の印象や感覚を言葉に置き換えようものの、知らないひとたちは笑顔でそれを拒む。

一緒に本を作った彼がつけたタイトル“「     」”が最適なものであったと、今あらためて実感している。


彼ともまた、空白の時間があった。
その間に彼は結婚していた。私は当時の恋人と別れていた。

今、彼に会っても、空白はきっと埋められない。


私たちが会ったとして、交わし合う会話がある。

ともに過ごした時間を思い出そうとする。
でも、各々がもつ視点が、過去を否定するように記憶を書き換えるかもしれない。


俎上に乗らずに置いていかれた過去、記憶は、空白になっていく。
自分が感じていたものでさえも。



あの本は、要らぬ想像を拒む過去と、過去を書き換えようと試みる無作法な私たちのための一冊。

こんなふざけた筆名を2人で即決するなど…

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