春の野生
勤め先に飾るものをと考えていたので、春だし桜や桃、梅あたりかなと花屋でうろうろと物色していた。その途中で、気づいた。花の中でも、そういう枝ものは旬の時期こそ花屋に置いていないのかもしれない。
というか、店内見かけない。あるのは温室で育てたであろうバラやカーネーション。むしろここには温室で育てたものしか並んでいないのかな。
温室育ちだとしても、少し前までは枝ぶりの良い啓翁桜が、店の目立つ場所にどぅんっと置かれていたのに。
勤め先の大きな花器に飾るには、枝ものがよかったんだけれど。
そううじうじしていても仕方がないので、店内を再びうろうろし始めた。
悩みながらも直感に頼り、結局その日は3種類の草花を買った。
まず目に留まったのはワックスフラワー。
松のような葉枝と梅のような花。あれ、葉枝はクリスマスのモミの木のようでもある。
和洋折衷なワックスフラワー。つやつやの葉が放つ妙な魅力に惹きつけられてしまった。
花は数年前に櫃取湿原で見た梅花藻を思い出させた。ぴょんぴょん石渡りした、あの川で見た水中花。
「ここを桃源郷と呼ぶ人もいる」
あの時一緒に桃源郷に行った人の声が聞こえたような気がしたし、やわらかく湿った山道の香りが一瞬したような気もする。
この日買ったのはワックスフラワー以外に、ミモザ、ラグラス。ミモザは思いのほか葉が鋭くて細長く、黄色の小花よりも強い印象。どれも野生味があって、温室育ちには見えないところが気に入った。
自宅にもワックスフラワーを。ラグラスと一緒に持ち帰った。
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